2014/04/02

真部脩一/Vampillia のアルバム「the divine move」 を聴いて。

① Vampillia - lilac (bombs 戸川純)

真部脩一/Vampilliaの新曲。
好き。
パッと聴いたら、やっぱりパッと書きたくなった。
思いつきでつらつらと。

(4/3 もう一曲、mirror mirrorの感想も追記しました)
 (4/7 CD届いたので、oops we did it again についても書きました。




■弦アレンジ
以前の楽曲、例えばハナエ「バースデイソング」を聴くと、
弦は取り立てて真部サウンドと相性が良いとは思わなかったのだけれど。
Vampilliaの演奏/編曲センスが入ると、
シンプルな楽曲に弦の音がよく馴染みます。気持ちいい。

Vampilliaで真部曲をやる意義が分かったように思う。
このミニマルな感じの編曲とか。生音の感じとか。
Vampilliaじゃないと出せないJ-POPの味がありそう。


■コード
曲の90%がいつものコードで構成されている。真骨頂な作品。
素晴らしいのは、主和音 I の使い方。

前半から中盤 (0:00-2:30) はマイナー系のコードワークが綴られる。
こういう感じ。
IIm →  IIIm →  VIm
IV  →  IIm  →  IIIm  →  VIm 
IV  →  V    →  VIm
IV  →  V    →  IIIm  →  VIm

VIm を軸としてコードを並べている。
すると聴感では、暗め・抑え目に聴こえる。
後半にかけて助走をつけている段階。


そして、後半 (2:31-) の大サビから一転、
主和音 I を軸とするコードワークが満を持して登場する。
こんなにもシンプルに。
IV→ V → I → VIm

この I は、メジャー感を強く打ち出す和音のため、一気に曲調が明るくなる。
いままで抑えられてきた分、パッと光が射す。
短調から長調への転調。

IV → V → I は、作曲を勉強して一番初めに習う基本的なコードのはずなのに、
曲の構成をきちんと計算して積み重ねていけば、光って聴こえる和音になる。
ロマンチック。
こんな方法論で曲作りをするひとが他にいない。


■戸川純
ゲルニカ好きなので嬉しい。
真部脩一 x 戸川純て、すごくニッチな所突っついているけれど、釣られた。
もっと変てこな歌い方でもいいくらい。


■歌詞
学研の付録の折りたたみの双眼鏡、ってこれかな
これを歌詞にのせる危うい感性。
さすが紙一重。

学研の科学と学習、僕は毎号読んでた身なのでとても懐かしい気持ちがした。
「見える 見えるよ 分かる 分かるよ」のフレーズは切なげで好き。

結局、真部脩一を作曲面でフォローすることはできても、
作詞面が天才的で孤高のため、だれも真似出来ないのだろうと思う。
詩集とか欲しい。

真部脩一さんは、すごくみえないところがすごい。
単純なところから、面白みを引き出せる人はほかにいないなあと思います。




②Vampillia - mirror mirror (bombs BiS)



いい曲だなあ。
メロディーはいつもどおりシンプルだけれど、
ベースに対してきっちり7th・9thの位置に置かれて良い響き。
2:33から、Vampilliaの爆音ってなんだか上品です。
音量は大きいけど澄んでる。


■コード
「きょうのそら うわのそらー」 で始まるセクションが2回登場する。
このフレーズ、とても面白い書き分けがされている。

1回め(2:03)は ミーレ  / ミーファ / ミレドレ / ド
                (  I      IV            V           I   )

2回め (3:22) は ラーソ/ラー  / ラソミソ / ミ
                     (  IV       IV           IV         IIIm   )

音形は似せているけれど、聴こえ方は全く違う。
1回めは素直に。
2回めは、IV調上のリディア旋法として聴こえるようになっている。
簡単に言うと、調性を曖昧にして、ふわふわ感が生まれるよう工夫されている。

特に赤字のシ音はシャープっぽく聴こえて、気持ち良いアクセント。


(参考 リディア旋法の感じ)


■MV
すばらしいすばらしいMV。
ONIONSKINという東京藝大のグループなのですね。ファンになった。

頭から花が咲く所、とろっとやわらかい感じが面白い。何回も見たくなる。
2:33から高速で切り替わる似顔絵の中で、
サブリミナル的に映る真部デトックス脩一のシャッターシェイドが気になる。


■歌詞
1番2番の呼応が好き。

  吐息に吹かれて
  薄紫の恋が舞う
  時計の針 止まってしまえ
  夜を終わらせて

に対して、
色や語感、語尾まできれいに対になって

  小指を離して
  唐紅の糸を切る
  扉の鍵 壊れてしまえ
  声を震わせて


■BiS
真部曲にあってる!
1:54のところ歌ってる方が好きです。



③ oops we did it again (bombs BiS)

4/7 追記
アルバム「the divine move」が早速届きました。
ポストの中に、見るからに怪しい漆黒の封筒が入ってた。
あかんやつかと思った。

ということで、Bombsシリーズのもう一曲も聴いてみました。



■アレンジ
「oops we did it again」は、
真部脩一の声フェチが炸裂する、傑作アンビエント曲。
ハナエ「oui_oui」の系譜です。

まさかの歌メロなし。

ピアノとチェロがゆったりとしたクラシックなメロディーを奏でる中に、
BiSの、
会話や泣き声や笑い声や叫び声やため息、
ボイスパーカッションやリップノイズや声帯模写、
あえぎ声やうめき声が交じり合って、
空間を埋め尽くしている。

簡単に言うと、アイドルの変な声を楽しむ環境音楽。

おそらく真部脩一が仕掛け人だと思うのですが、
その変態っぷりにドン引きです。
正直に言うけど、こういうのが聴きたかったです。
とても好み。

真部さんは、可愛い声にこだわりがある人だと思っていたけれど、ちょっと違った。
「声の可能性」に強迫的なこだわりがあるのだと感じた。

人間の生み出せる声は、実際には数えきれないくらいあるのだけれど、
普段はそのうちの少ししか使っていないんだなあ、としみじみ思ってしまった。


■泣き声
曲の中盤、音楽がBiSの泣き声でうめつくされる部分があります。
泣ける曲じゃなくて、歌手が泣く曲。

なんだそれ、と思うのですが、
なぜかもらい泣きしそうになります。不思議と感情をいじられる。

この曲、BiSにどんな発注したんでしょうか、全く想像もつかない。
そもそもどんなデモテープを作ったんだ。そっちが聴きたいわ。

この泣き声部分があることで、曲に明確な輪郭がうまれていて、
曲の盛り上がりが、そのまま感情の盛り上がり=泣きと対応するという
構成がみえてきます。


■影響
過去作品と照らし合わせると、
進行方向別通行区分の「23show」間奏部が一番近いかもしれません。
犬の鳴き真似のところ。


■演奏
この曲は、壮大なふざけなのですが、
これを成立させている最も大事な要素が、Vampilliaの美しい演奏です。

背景音は、とにかく一分の隙もなく、美しいメロディー/伴奏に徹している。

ボーカル側は、救急車の声マネみたいなすごくしょうもない事をやるんですが、
伴奏が本気なので、なんだか崇高な意図がある気がしてきます。
「ピーポーピーポー」の声すら切なげに聴こえる。

そしてクライマックスの、泣き声の場面では
ピアノ・チェロが畳み掛けるような重厚な和音を奏で、
リズムパターンも3連符主体に変わって、
BiSの泣き声を影から持ち上げ引き立てる役割をしています。
ふざけているようで、ここぞというところに挑戦的な音を加えてくる。


ここまで書いて
この変な曲を真面目に語るのって、とてもアホなことだなと自分でも思いました。

それでも真面目にかいてしまったのは、
Vampilliaの作品が想像をはるかに超えて、土台のある音楽だと感じられたためです。
技巧・技術の上にアイデアが積まれているような。


■その他記事かきました
集団行動の1stアルバム『集団行動』を聴こう
真部西浦バンド。

ハナエ・真部脩一の「上京証拠」をみつけよう

真部脩一(ex. 相対性理論) の「モチーフ作曲法」

7 件のコメント:

  1. lilacを聴いた時に、なんとなく相対性理論の地獄先生に似た印象を受けたのですが、やはりあのコードでほとんど構成されている曲なのですね。

    個人的にはユニークでなんともいえない魅力のある歌詞が気に入っています。
    「ふわりふわりとふみだせば」や「雲のそびえる屋根の上」など、
    天使が描かれたりするヨーロッパの絵画のような神話的な世界に、「学研の双眼鏡」や「楽天のブログ」といったすごくリアルな言葉を放り込むことで、詩のおとぎ話性がむしろ増して感じられるのが不思議というか、その言葉のチョイスのバランス感が絶妙だなーと。

    あとフランスを象徴するリラに、ジャルダンとフランス語を使ったら、あとでパリジャンが出てきたり。
    「君はどこでまってるの」のフレーズから、リラの花言葉である友情や初恋という言葉が想起できたり。
    真部さんの詩は、ナンセンスなようでそれだけじゃない何かがあるような気がして、それをいつも楽しみしていますね。

    ホント、詩集があったらほしいです。

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  2. こんにちは。読んでいただいてありがとうございます。
    音もそうですが、僕も歌詞が素晴らしいと感じます。

    ふだん音楽を聴く時、音の方に集中するためほとんど歌詞が聴こえないのですが、真部さんの詞はふしぎと耳に入ります。音として耳触りがいいのかも。

    挙げていただいた2点、とても納得できます。
    ①非日常と日常の取り合わせ ②同一フレームの単語を選択 というのは、真部さんの特徴的な作詞作法になっているなーと感じました。

    ①は相対性理論「小学館」のなかの、宇宙漂流と漫画雑誌の取り合わせや、
    「四角革命」での、革命と宿題の取り合わせなどなど、沢山あります。
    俳句でいう「二物衝撃」の手法に近いと思いました。

    ②はハナエ「神様はじめました」においての、ヴィオロン、悪の華(ボードレール)、シルエット、ピルエットというフランスつなぎでも感じられます。
    リラの花言葉! 彼ならそこまで考えうる、と思えてしまいますね。

    これに加えて、彼の記法として際立っているのは、
    ③引用(パロディ) 「フジカラーで写す」「パンがなければケーキでいいじゃない」
    ④押韻(ダジャレ) ほぼ全曲
    かと思います。
    こうやって並べると、独自の理論/思想に基づいているのがわかりますね。
    あとは乙女のポエム感とか……。彼はやっぱり天才な気がしてきました。

    詩集とか小説とか、ほしいですね。

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  3. ご丁寧な返信いただきありがとうございます。
    僕も真部さんの歌詞は耳に残ってしまううえに、何度も聴きたいと思わせる中毒性もあって、たぶんitunesでの再生回数は真部さんの曲で占められている気がします。。。
    ボーカルの力もあるのでしょうが、個人的は耳に残る理由のひとつとしては、
    フレーズをリピートする+フレーズにイントロをつける。というのがあるのかなと感じています。(押韻の一種かもしれませんが。)
    リピート系は「学級崩壊」「チャイナアドバイス」や「変幻ジーザス」など、
    イントロ系は「さわやか会社員」(さ・さわやか)「マイハートハードピンチ」(あいうえおっと)「ペペロンチーノキャンディ」(ペ・ペ・ペペロンチーノ)などですかね。
    言葉にリズム感が生まれて、グッと耳障りがよくなる気がしています。

    歌詞も天才的ながら、「フリースタイル」という雑誌のエッセイを読んだときも、短い文章のなかでも文才の豊かさを感じさせるものでしたので、エッセイや小説もぜひ書いてほしいなと期待してしまいます。
    あと、先日、進行方向別通行区分のライブを観に行ったときは、謎のラップを披露しておられましたし、つかみ所の無さも興味深いですね。
    ほんと多才でこの人の音楽を聴ける時代にいれてラッキー!と思っているので、その活躍から目を離すことができません。

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    1. こんにちは。
      「フレーズのリピート」と「フレーズにイントロつけ」、ホントだ! まさしく特徴的です! 聴いた感触の良さはこういうところからきているんですね。

      「イントロ」というのは的を射た表現で驚きでした。確かにダジャレや押韻とも違う、面白い特徴です。
      ご指摘の例を踏まえると、イントロには「吃音」と「しりとり」の2タイプがある感じでしょうか。①語頭を繰り返すか(さ・さわやか)、②別の言葉からつなげるか(あいうえおっと)。
      「O・O・OPQRSTUVカット」は2パターンとも入っている例だといえますね。面白いです。真部脩一の真骨頂という感じで。
      やくしまるさんもこの手法を継いで、「子・丑・寅・卯・探偵さん」と書いたんですね。

      フリースタイル、僕も読みました。小気味良い文章で、真顔で冗談を言う感じの作風ですよね。もっともっと読みたいと僕も思います。

      ボーカル/パフォーマーとしての真部さんは掴みどころない感じですね。 僕は生で聴いたことはありませんが、お噂はかねがね…。
      真部脩一のシンガーソングライティングアルバムが出たらきっと伝説になるんじゃないかと思います。

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  4. はじめまして。
    真部さんの作曲について調べていたらこのブログにたどり着きました。
    作曲の技法や興味深いプレイリストを作成されてい読み耽ってしまいました。
    ブックマークに登録してこれからも楽しませてもらいます。

    こちらの記事でもVampilliaの解説とても興味深く読ませてもらいました。
    そこで突然申し訳ないのですが、lilacのコードの取り方について質問があります。
    後半のメジャーになる部分のコードはわかりやすく和音がなっているのでわかるのですが、前半のミニマル部分のコードはどのようにして取っているのでしょうか。
    出てくるモチーフを全て聞き取り、そこからコードを導いているのでしょうか。
    不躾な行為ではありますが、もしお手隙の際に答えてもらえるととても助かります。
    これからも更新楽しみにしています。

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    1. こんにちは。お読みいただいてありがとうございます。

      こちらの文章、かなり省略して書いており。。わかりにくくてすみません。
      ・冒頭のミニマルなところ0:07-0:43は「VIm」1本で書かれていると思います。
      ・0:44からは、いつものベースの動き「レ→ミ→ラ」が出てくるので、「IIm→ IIIm→VIm」ととります。
      ここから先は、ベースをそのままディグリーとしてとる、くらいの感触でよいかと思っています。

      真部さんの旋律(メロディ・モチーフ)はペンタトニックスケールなので、旋律だけ聴くとコードとしての機能が無いんですよね。
      なので、基本的に真部さんの作曲は、ベースの1音でコードを決めている、と考えておくのが簡便かと思います。

      さらに正確にとるなら、
      冒頭のモチーフ部分はコード感が無く
      コードのディグリーだけだと雰囲気が表現しきれない、というのはご指摘のとおりなので、
      「VIm」と書くよりも「VIマイナーペンタトニックスケール」とスケールで明記する方が、実際の聴こえに合っていて良いかと思います。
      (→出てくるモチーフを全て聞き取り、そこからコードでなくスケールを導くイメージです)

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    2. 返信ありがとうございます。
      ベースラインをそのままディグリーとしていたのですね。
      0:44以降にとりわけモチーフが増えたわけでもないのに、コードが変わることがわからなかったのですがおかげで理解できました。
      >「VIm」と書くよりも「VIマイナーペンタトニックスケール」とスケールで明記する方が、実際の聴こえに合っていて良いかと思います。
      この説明もとてもわかりやすかったです。初学者なので自信がありませんが、いわゆる「モード」的な音楽として理解しました。

      kahoさんの説明はとてもわかりやすくて助かります。
      本当にありがとうございました。

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