2014/10/01

聴いて覚える田中秀和さんのコードワーク

田中秀和さんは、MONACA所属の作曲家です。
アニソンを中心にキャッチーで複雑な曲を数多く手がけられており、
神前暁さんに並ぶヒットメーカーとなっています。

リクエストがありましたので、
今回は田中さんのコードワークについて書いてみます。
盛りだくさん過ぎて説明しきれませんので、
田中さんの曲によく登場するコードを 3個に絞って紹介します。

① IIIm7-5
② #IVm7-5
③ ♭III dim7

なんだか難しそうなので、音を聴いて響きでおぼえてみましょう。
話半分で読んでみてください。

16/04/17 追記
MONACA神前暁さんのコードワークについて書きました。
◆神前暁「chocolate insomnia」でコードの転回形を覚えよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/04/chocolate-insomnia.html



14/12/07 追記: 続編の記事を書きました。興味ある方はどうぞ。

◆田中秀和さんのオーグメントコードを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/12/blog-post_7.html


(追記) さらに新しい記事を書きました。
◆田中秀和さんの「落ちサビ転調」を聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/01/blog-post_15.html

◆田中秀和さんのスケールを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html








① IIIm7-5    ( 別表記:IIIm7 (b5) )


「マイナーセブンスフラットファイブ」「ハーフディミニッシュ」と呼ばれるコードです。
名前かっこいいですね。

通常の作曲では IIIm7 (ミ・ソ・シ・レ) というコードを使いますが、
ここぞというところで IIIm7-5 (ミ・ソ・bシ・レ) に変化させて用います。

このコードを多用される方は珍しいので、
一番「田中さんっぽい!」と感じるのがこのコードです。
とても切なげな和音になります。

以下、使い方がわかりやすそうなものをピックアップします。


◆例1: Let's アイカツ
  1:23-
  ハー  トのチャイムならし て   てわたすよー
           IV△7      V          IIIm7-5          VI7


◆例2:LUCKY DUCKY!!
  1:45-
  ラッキー ガール せかいじゅう   を ー
  IIm7      V           IIIm7-5          VI7


◆例3:オリジナルスター☆彡
  1:19-
  いつか    ぜったい じぶんとの やくそく
  IV△7      V            IIIm7-5       VI7


◆例4:Good morning my dream
 0:28-
 でかけよう        あたらしいふくに
      IIIm7-5        VI7(b9)


使い方にも共通点が感じられますね。
王道進行(IV V III VI) に組み込むのが、田中さんっぽい使い方です。


② #IVm7-5  ( 別表記:#IVm7 (b5) )

先ほどの①と同じく、ハーフディミニッシュコードです。

通常の作曲では  IV△7 (ファ・ラ・ド・ミ) とするところを
盛り上げたいところで  #IVm7-5(#ファ・ラ・ド・ミ) に置き換えます。

田中さんの曲では再頻出のコードで、近作のほとんどに登場します。
サビのど真ん中に使ったり、ちょっとしたつなぎに使ったり
凝ったポップスには必要不可欠な存在です。


◆例1: Let's アイカツ
  1:28-
  きみにスマイ  ル あしたに    ゆ  め
       #IVm7-5   VII7         IIIm7      VI7


◆例2: カレンダーガール
  1:19-
    あれ      ー       まえむき  に ー
      #IVm7-5  IV△7        IIIm7    VI7   


◆例3: Colorful Days
  1:31-
  ないから    このしゅんかんが    き せ    き
       #IVm7-5      IV△7        IIIm7    VI7          


サビ前半は IV△7   を使っておき、
サビ後半は #IVm7-5 に置き換える、というのが田中さん風です。


③ ♭IIIdim7

ディミニッシュコードと呼ばれるコードです。

♭III dim7 (bミ・bソ・ラ・ド) という短3度に積み上げた、普通じゃないコードです。
不気味な美しさがあり、上手く使うととびきりおしゃれな音になります。

登場した瞬間に、その響きの意外性にドキッとさせられます。

◆Colorful Days
   1:09-
     しあわせなじかん     しあわせにつづく
   I / III                        bIII dim7               


◆めいあいへるぷゆー?
   0:42-
   ゆうこうてきなけんかいで おおむね ハッピーデイズ
   IV△7           I / III                bIII dim7      IIm7   V


◆あっぱれ!瞬間積極剤
1:16-
なかよしー     やだ   てれる
   IV△7         IIIm7   bIII dim7


ディミニッシュコードも、使い方に共通点があるのがわかると思います。
ベース音をミ→bミ  と半音下げつつ、 I / III → bIIIdim7と使うのが定番です。



まとめ


最後の総まとめとして、
めちゃめちゃ高度な 「花ハ踊レヤいろはにほ」 を聴いてみます。
いままで紹介したコードが聴こえるか、サビ部分で確かめてみましょう。

◆花ハ踊レヤいろはにほ 


0:51-
パーッとパーッと はれやかに   さかせましょう はなのように
IV△7                IVm△7         IIIm7               bIIIdim7 (③)

これからの        きみが         みたい                 いろはにほ
IIm7                bVIaug          VIm7           Vm7    Iaug

パーッとパーッと はれやかに  さかせるおもいは つねなら    む
#IVm7-5 (②)       IVm△7        IIIm7-5 (①)      IIIm7-5/VI   VI7

コードwikiより


3種類ともサビに登場します。
それぞれの和音の感じがつかめたでしょうか?

今回の解説はたった3つのコードだけでしたが、
ここぞというところに組み込んでいるのがわかるかと思います。

他にも、今回触れていないaug、IVm△7など、難しめの和音が多数含まれています。
もし「花ハ踊レヤいろはにほ」のコードが全部聴き取れたら
世のポップスの9割9分は聴き取り出来ると思います。(僕はむりです)

田中さんのすごいところは、そんな複雑なコードを駆使しつつ、
神前さんと並ぶような王道の音を作っている、というところです。凄い。





田中秀和さんの作曲、ものすごく好みです。
それもそのはず、
僕の敬愛するLamp の作曲作法と、実はとても似ているんです。
ディミニッシュとオーグメントを駆使してキャッチーな音を作る人。

ファン層は全くかぶってないと思うのですが、
アニソンやインディーズに偏見ゼロの方であれば、
共通点が見いだせるかもしれません。



関連記事

◆田中秀和さんのスケールを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

田中さんの魅力的なスケールワークについて。


◆田中秀和「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」の楽しいスケールワーク
https://kaho-ss.blogspot.jp/2017/11/punchmindhappiness.html

1曲の中でのスケールの使い分けを聴いてみます。



◆田中秀和さんのオーグメントコードを聴いてみよう (田中さん特集2)
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/12/blog-post_7.html

今回は触れなかった、田中さんのオーグメント(aug)についてまとめました。
複雑で面白いコードです。


(16/01/15追記)
◆田中秀和さんの「落ちサビ転調」を聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/01/blog-post_15.html

田中さんの転調についての記事です。
かっこよくて好み。

16/04/17
◆神前暁「chocolate insomnia」でコードの転回形を覚えよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/04/chocolate-insomnia.html
MONACA神前暁さんのコードワークについて書きました。


◆神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/09/3.html

この転調作法は定番なので、田中さんも用いることがあります。


◆Lampの名曲とディミニッシュコードの響き
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/02/lamp.html

ディミニッシュコードの響きをさらに聴きたい方はこちらをどうぞ。


◆「さち子」の作曲をみてみよう (Lamp「ゆめ」より)
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/02/lamp_16.html

コード感がとても良く似ているLampの記事です。
実は、今回取り上げたコードが数多く登場しています。

2 件のコメント:

  1. 大変分かりやすい内容に感動しました。
    >> 一番「田中さんっぽい!」と感じるのがこのコード
    というのに頷きながら読んでました。確かに切なさを感じるコード進行が多いような。

    以前のコメントでもおっしゃってましたが「花ハ踊レヤいろはにほ」は相当複雑なんですねえ。改めてコードを見てみると「田中さんらしさ」をこれでもかというくらい詰め込んだ感じで興味深いです。合いの手も相まって聴いた瞬間分かりますよね。

    わざわざリクエストお答え頂きありがとうございます。これからも更新楽しみにしております。実はこのブログを拝読しているのにも関わらずLampを聴いていなかったのでチェックしておきます!

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  2. yozさんこんにちは。お読みいただきありがとうございます。

    やはり曲を並べてみると、田中さんの曲は幾つもの「田中節」で溢れていて、
    もしノンクレジットでも誰が作ったのか分かりそうです。
    「花ハ踊レヤ…」までくると、過去の音楽に類を見ないくらい独創的ですし。

    一聴してすぐに作者がわかる、というのはとても魅力的ですね。
    作風の幅広さも大事ですが、作者自身が「これを聴かせたい!」という軸をもっているようなものはグッと来ます。
    リクエスト頂いたこの機会で、また勉強になりました。ありがとうございます。

    Lampは、
    相対性理論(やくしまるえつこ+真部脩一)のような声質と、
    田中秀和さんのようなコード感がある素敵なバンドなので、yozさんはもしかしたらお好きかもしれませんね。
    ぜひ聴いてみて下さい。

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