2017/04/21

数人におすすめしたい、洋楽アルバムの意欲作 3枚

万人とはいかないかもしれませんが、
数人におすすめしたい洋楽アルバムを3枚選んでみました。

綺麗なコードワーク・コーラスワークや、
曲を最後まで聴くことで発見がある(伏線回収する)音楽が好きです。
紹介文をたっぷりめに書いてみました。

   1. Cold Crows Dead 「I Fear A New World」
   2. Giorgio Tuma 「My Last Tears Will Be A Blue Melody」
   3. The Sonic Executive Sessions「The Sonic Executive Sessions」

各アルバムにつき、2曲ずつ紹介します。
話半分でどうぞ。



1. Cold Crows Dead 「I Fear A New World」 (2014)

■1-1   Cold Crows Dead - Deadheads
ブリットポップがお好きな方にお勧めです。
あまりにも素敵なので、これがデビューアルバムなわけないと思ったら、
Paul Steel の新しいプロジェクトだそうです。

冒頭を聴くと、普通のバンドサウンドかなと思うのですが、
サビ(0:27-)で急にリズム隊が消え、
伴奏がストリングスに変わって、一気に引き込まれます。
サビのフレーズ(「ソミ・ソミ」)が印象的ですね。

このサビ部分を使って、最後に大きな仕掛けがあります。
調の移り変わりを見てみましょう。

0:00      0:27        0:42       1:06
Ab         F(サビ)      Ab          F
      -3             +3            -3    

        2:06       2:18        2:30        2:42
        F#          G            Ab           A
+1          +1          +1            +1    

前半はキャッチーな短三度転調(±3)を繰り返します。
サビでグッとくるのは、短三度下転調の効果だったのですね

後半はサビ部分を繰り返しながら、
4回連続の半音上転調(+1)が続きます。聴いてて嘘だろ……ってなりました。
「ラストサビの半音上げは盛り上がるから、何度もやっちゃえ」ですね。
素晴らしいアイデアです。


こんな感じで、以下続きます




■1-2   Cold Crows Dead - Loves in, Loves out

スローテンポなので、先ほどにもまして歌声の魅力が感じられる曲です。

冒頭、シンプルな和音とメロトロンの音、懐かしくて素敵です。
0:36-から半音下がりのクリシェが入って、
すこしずつ感傷的な響きが増えます。
ビートルズの雰囲気ありますね。

サビ(0:44-)の旋律をよく聴いてみると、
先ほどの曲と一緒なのがわかるでしょうか。
「ソミ・ソミ」の特徴的な動きです。
アルバム通して聴くと、こういう統一感がとても美しいです。

1:55- の2回目のサビを経て、2:38から雰囲気が変わります。
ここのコード進行  VIm  →  IVm7   も嘘だろ……ってなりますね。
マイナーからマイナーに進んで、不安定な動きのコーラスが重なります。

3:02で、先ほどのマイナーコード(IVm7)が2拍分、静かに鳴り終わると
(ここが最高にカッコイイです)

3:04で、和音がメジャーコード(IV△7)に切り替わって、
シンセストリングスのポルタメント(ぐいーんと上がるやつ)が
高らかに響きます。目の前がぱっと晴れる感じがしますね。
盛り上がり曲線がとても綺麗です。



2. Giorgio Tuma 「My Last Tears Will Be A Blue Melody」(2016)

■2-1. Giorgio Tuma - Maude Hope
イタリアのジョルジオ・トゥマ。
初めのコードワークで、大好きになりました。こんな感じでしょうか。
0:09-
IIm9      I△9      bVI7(9,13)      IV△7/V

3つめのコード、意外性あって素晴らしいです。惹き込まれますね。
曲の要所要所でアクセントとして使われています。

この曲はドラムパターンの変化が効果的なので
着目してみましょう。

0:00から、単調な3拍子のカチカチしたリズムではじまり、
1:08から、6/8拍子風のゆったりとしたグルーブ感が出てきます。ここが好き。
一回目(0:09)と二回目(2:00)のサビ、雰囲気がまったく違いますよね。
同じメロディーなのに、熱を帯びた感じがします。

ジョルジオ・トゥマは、ステレオラブのフォロワーだそうで、
2:53あたりから聴くと、生音と電子音の融合が、まさにという感じです。
女性ボーカルは、なんとステレオラブのレティシア・サディエールです。
愛があふれてますね。

以降、徐々に曲が壊れていき、ミニマルなメロディーだけが繰り返されます。
生音と電子音とコーラスがあふれて、ステレオラブやハイ・ラマズのような
桃源郷的な世界が立ち上がります。
最後は、4:19-からのミニマルなギターフレーズが飾ります。


■2-2. Giorgio Tuma - My Last Tears Will Be A Blue Melody
冒頭から、心がざわつくような美しい和声が付いていますね。
コードネームをざっくりつけると、こんな感じでしょうか。(自信ないです)

0:00-
  A△7(9)      G#7(b9) /A        Bm7/E       C#7(b9) /D
               ( Adim7(add G#) )               ( Ddim7(add C#) )
ディグリーだと
( I△7           VII7(b9) / I        IIm7/V       III7(b9) / IV     )


2つめと4つめのコードは、
ディミニッシュセブンスコード(赤字) とメジャーセブンス(青字)の響きが
同時に聴こえるような、不思議な魅力があります。
 2つめのコード:  ド   ミb   ソb   ラ(シbb)   +  
 4つめのコード:  ファ  ラb   シ(ドb)   レ(ミbb)   +  
機能としては、7(b9,13)の根音省略とも取れますね。
とても好みです。

この曲も非常にミニマルで、冒頭のコードワークがずっと循環します。
アレンジで特筆すべきところは、1:42からのリズムです。
高らかにロールするスネアドラムにびっくりしました。

あまりに予想外だけれど、一回聴いてしまったら
これしかないと思ってしまう不思議な説得力があります。

最後は、2:47-のコーラスからリズムが止まり、巡り巡って
3:23の鮮やかなハープでリズムが回帰します。
ロマンチックですね。



3. The Sonic Executive Sessions「The Sonic Executive Sessions」(2010)

※このアルバムは、ボーナストラック(#12-18)付きがおすすめです。
日本版など。
ボーカル/コーラスのみの音源が付いているので、美しい歌声を堪能できます。

■3-1. The Sonic Executive Sessions - You'll Never Be Happy

ザ・ソニック・エグゼクティブ・セッションズのアルバムには、
ポップミュージックへの愛と魔法がいっぱい詰まっています。
イントロの美しいコーラス(0:00-0:12)が印象的です。素敵な声。
このコーラスをよく覚えておきましょう。

サビ1:03-のハーモニーは不思議な聴感でキラキラしています。
コードワークを書くと、こんな感じでしょうか。

1:03-
| Iadd9/V       |  II7(9)/VI       |  IIIm7(11)   bVII7(9)  |  

| bIII△7   IIm7/V    |

ブライアン・ウィルソン風の第二転回形(青字)を大胆につかっています。
ふわっと浮かんだような優しい響き。
その後、予告なしのモーダルインターチェンジ(赤字)で
一瞬だけ短三度転調しています。カッコイイですね。

サビ1:03のコーラスアレンジをよく聴いてみてほしいのですが、
先ほどのイントロのコーラスがまるごと入っています。
イントロは、サビの予告だったんですね。こういう遊び心にときめきます。

1:37からの2番は、どこもかしこもコーラスで溢れていて、
聴いてて幸せな気持ちになります。
2:39のクイーン風のギターソロも楽しく、2:56-のブレイクの作り方も
まるでボヘミアン・ラプソディみたいな感じしますね。


■3-2. The Sonic Executive Sessions - 17 Over You
全編通じて、丁寧なコーラスワークに聴き惚れてしまいます。

サビ 0:40- の複雑な和音使いにときめきます。
そして、最後の落ちサビ(2:31-)  が寂しげでとてもカッコイイです。
今までの分厚いコーラスが「ない」ことが魅力的に聴こえますね。



解説しすぎは無粋ですが、サビのハーモニーをざっくり聴いてみます。
(実際はもっと細かい動きが入っていて、僕だと聴きとれません)

0:40-
| I      |   bVII7(9,#11,13)    bVII(9)  |

| IIm7/VI    V7(9)/VII    |  IV/I    I/II    I/III    IV  |

0:52-
| I      |   bVII7(9,#11,13)    bVII(9)  |

| IV/VI   VI    I/III      |   II7(9)/bIII      IIm7  V/I  |   IV/I
                                  ( ≒ bIIIdim7 )
                               実音で Cdim7 (add B)

素敵な和音が満載です。
サビ2小節目の強烈なテンションコード(赤字)は、
ベースに対してメロディーが#11thにあり、増四度の鋭い響きを持っています。

3-4小節めは、ベースの順次上行に対して、
転回形の連続(青字)を当てていてとてもおしゃれ。

8小節目は、先ほどのジョルジオ・トゥマの曲にも出てきた、
ディミニッシュ+△7の響きをもつコード(緑字)が使われています。大好き。

**

僕の好みな洋楽アルバム3枚を紹介しました。
ジャンルは違いますが、少し共通するところはありそうですね。
気に入ったものがあれば、ぜひアルバム通して聴いてみてください。


過去記事です。
こちらも大好きなアルバムを紹介しています。

■ 親しみを感じるアルバム10枚


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